治療院経営ラボ代表の松村です。

さて、我々の業界がずっと抱えている無資格者問題で少し進展がありましたね。

今回はそのことから、今後の治療院経営ラボの方向性について書いていきたいと思います。

 

裁判所が出した無資格施術の解釈

私自身、面識も何もない先生ですが、山形県の工藤はりきゅうマッサージ治療院の工藤先生という方が提訴したのが始まりです。→ http://blog.kudo-massage.com/?eid=141

 

この提訴はあはき法や柔整師法違反での提訴ではなく、不正競争防止法での提訴でしたがその中で山形地裁の解釈が以下のものでした。

 

山形地方裁判所令和7年3月25日判決令和5年(ワ)第61号

 

工藤先生のブログ記事はこちら→ http://blog.kudo-massage.com/?eid=158

大事な部分に赤線をひきましたが、本文でも書いておきます。

 

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律12条が無資格者による医業類似行為を禁止する趣旨は、人の生命や健康に危害が生じることを防止するとともに、国民が適時に適切な医療を受ける機会を失うことを防止するところにある。そうすると、特定の疾病又は症状の改善、解消又は緩和することを目的とする施術は、同条が禁止する医業類似行為に該当する

 

「特定の疾病又は症状の改善、解消又は緩和することを目的とする施術は、同条が禁止する医業類似行為に該当する」

たった50文字程度の文ですが、裁判所がこれを明確にしたのは一歩前進ではないでしょうか。

 

無資格者の方々は授業を受けていないため〝関係法規〟なる科目ももちろん学んでいないです。
この記事を読む無資格者もいると思うので、あはき法・・・正式には「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」の第一条と第十二条を書いておきます。

 

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律

第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)
第十二条 何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)

 

 

無資格者が主張してきた「判例」とは

いわゆる、「HS式無熱高周波療法」の裁判です。

詳しくは省きます。(「HS式無熱高周波療法」で検索すれば出てきます)

発端は鉱夫だった後藤博がHS式高周波治療器を購入し、炭鉱仲間に治療を始めたことです。

それがあはき法違反として訴えられました。

昭和28年に福島県平簡易裁判所にて医業類似行為の違反、罰金罰金1,000円の執行猶予付き判決がでました。

後藤はこれに対して「HS式高周波治療器の治療法は無害有効なので医業類似行為には当たらない」と主張し仙台高等裁判所へ控訴。

まあこの時点でも「ふざけんなよ」と思う話ですが・・・

しかし仙台高裁も同じく有罪。

しかし後藤は「危害を与えてない無害で有効な治療を禁止するあはき法第十二条は憲法違反だ」と最高裁に上告。

最高裁の判断は、「いやいや、全然違憲ちゃうでしょ。とりあえずあんた(後藤)有罪ね。あ、HS式高周波治療器が有害か無害かは仙台高裁で検証よろしく」でした。

 

思いっきり有罪なわけですが、なぜ無資格者の多くが「無害であれば免許はいらない」となったのかというと、マスコミの影響です。

当時からマスコミはマスゴミだったようですね。

朝日新聞の見出しは「無害なら罪にならぬ」
毎日新聞の見出しは「有害な場合だけ制限、あんま・はり等の医業類似行為」

ふざけていますね。

これらの報道を受けて当時の厚生省(現・厚労省)は全国の知事たちに

「この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺激等の療術行為について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう、柔道整復の業に関しては判断していないものであるから免許制の施術行為は有害か否かにかかわらず、無免許者はその行為を以て取り締まるものとする。」

と通達を出しています。

ちなみに、ある意味で無資格問題の戦犯とも言える後藤のHS式高周波治療器ですが、単なる低周波治療器だったようで、人体に影響ありと明確にされました。

ゆえに「無資格者が人体に害のあるもの使って治療行為したらダメよ」とちゃんと判決が出ています。

 

参考:
事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

おわかりのように、昔から無資格者による施術も、もちろん開業も日本という国では認められていないというのが現状ですが、マスコミの影響や行政の対応の遅さ等が重なり、いつまでも我々の業界で無資格者問題が存在してしまっていることになるのです。

 

 

2つの判例を参考にした考察

今後どうなるかはわかりませんが、このまま山形地裁の判断が通ると、今回の工藤先生の裁判における裁判所の解釈である

 

「特定の疾病又は症状の改善、解消又は緩和することを目的とする施術は、同条が禁止する医業類似行為に該当する」

 

という部分と、無資格者が主張してきた〝判例〟の真実を合わせると、無資格者による「何かしら身体の症状を改善する目的で行う施術」は違法行為であると言えます。

 

 

無資格者によるバカげた主張

よくある無資格者の主張に

「資格(免許)で制限して治せない医者やあはき師や柔整師の治療しか受けさせないほうが国民に適時に適切な医療を受ける機会を損失させている」

というものです。

アホとちゃうかな、と。

論点が違いすぎます。

この論理がまかり通るなら、ゴーカートのレースが上手な人が

「プリウス乗ってる普通免許持ってる高齢者のほうが危ないし、俺は運転上手いから普通免許取らなくても日本の公道走っていいよね?」

って言ってるようなものです。

交通事情と違うところは、無資格者は日本国内のデータ上事故(過誤によるもの)が非常に多いです。

これは僕の主観ではなく発表されているデータです。

解剖学でも骨・筋レベルで、しかも一般の方々を相手に玄人っぽさを出すくらいならすぐに覚えられます。

しかし我々〝免許持ち〟は、一見直接僕たちの臨床に役立ちそうにない学問である病理学やそれこそ関係法規なども学ばなければなりませんし、それが事故防止のブレーキになることもあります。

また、直接関わりがあるもので言えば、あはきであれば臨床医学総論、各論。
柔整なら一般臨床学(だったかな?)ではないでしょうか。

それぞれ、眼科、皮膚科、耳鼻科・・・などの基本を覚えさせられます。
もちろんもう覚えていない免許持ちの先生もいらっしゃるでしょうが、しっかり覚えている先生もたくさんいらっしゃいます。

そうすることで、我々自身が対応できる症状なのか医師にお任せするべき症状なのかの判断もできるのです。

知らないから僕たちなら絶対やらないことをやって、マグレ当たりでホームラン級の良い結果を出すこともあるでしょう。

しかし、命に関わるデッドボールを出してしまう確率のほうが高い、それが無資格者による施術の怖さです。

やりたいなら、あはき師か柔整師の免許を取れ、そういうことです。

 

 

今後の業界における課題

今後の課題は、どう無資格者を取り締まるのか?でしょう。
警察でも通報しなけりゃ動きません。

ただ、警察はパトロールというものがあり、不審なら取り締まりますが管轄の保健所はパトロールするわけでもなく(したとしてもリストがある我々有資格者のところに行くくらいになるでしょう)、結局は通報に頼るしかありません。

しかし保健所の人員は限られています。

保健所は病院や歯科医院、薬局の管理(監視)もあれば、感染症や衛生に関わることも業務。
飲食店も保健所管轄です。

そんな中で、我々あはき師、柔整師のジャンルだけでにかまけてられないだけでなく、医科・歯科の広告問題とそれに追従する形で我々の広告問題の取り締まりもあり、人員が足りないというのが問題かもしれません。

しかし、2月に出された広告規制のガイドラインでは、違反して悪質なら保健所が警察に通報して刑事罰を受けさせると書いてあったわけですから、無資格者に関してはいきなりもうそれで警察に任せるくらいのことをしてもいいかもしれません。

警察も暇ではないですが、保健所よりは人員もあるでしょうから、生活安全課あたりが主になって動いてくれるくらいのほうがいいのかもしれないです。

 

実は僕の院がある西宮市の保健所も非常に忙しそうです。
しかし役人天国と言われる西宮市、ことあるごとに「無資格者取り締まって」と僕は提言してますがゴニョゴニョ言って誤魔化され続けています。

いつか暇になったら無資格者の店舗リスト作って保健所に送って仕事増やしてやろうと目論んでいますが、なかなかそんな暇がないです。

だれか暇な先生がやってくれたらいいのにな。笑

 

 

今後の治療院経営ラボについて

個人としては、無資格者の方でも良い人、勉強熱心な人がたくさんいるということはわかっています。

しかし「治療院業界の適正化」「治療家の社会的地位向上」のために活動している治療院経営ラボとしては、僕個人の考えは抜きにして業界のために動く必要があります。

セミナーやラボに入会に関して、元々無資格者はお断りしていましたが一部の無資格者に対して受け入れようという方向性でしたが、それは一切無しにします。

また、開業権がない医療系資格(看護師やPTやOT)の方々が症状の改善を目的にした施術をする店舗をしているという場合もラボのセミナー受講、ラボへの入会は一切お断りすることにいたします。

もちろん、PTやOTの方がトレーニングジムを経営しているであるとか、美容サロンを経営していて他の法律に抵触していない場合は全然OKですので、そういう場合は治療院経営ラボの理事が主宰しているもう1つのコミュニティを紹介させていただきます。

もちろん、何の資格・免許を有していない方も同様、法律に抵触しない事業であるならば同様の対応をさせていただきます。

 

治療院経営ラボの対象としては、医師・歯科医師・柔道整復師・はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の免許を持つものが、業として医療行為、医療類似行為を行う施設を経営する、もしくはそれらの施設を開業する意思、予定のある先生に限定し、お金と時間と労力をかけて免許を取った先生方がバカを見ない業界にしていくための活動を積極的に行っていきます。

また、開業権がない医療系資格をお持ちの方々(看護師、理学療法士、作業療法士等)に関しては、法律遵守、すなわち症状の改善を主張せずに行うサロンであったり、トレーニングジムやピラティススタジオ系のことであったりといった店舗の方々のみ受け入れをさせていただくという形にしていきたいと思います。

何の資格もお持ちでない場合は、ラボには入会できませんし、無資格でありながら有資格者と誤認するような屋号(◯◯院、◯◯施術所等)をつけていたり、症状の改善を謳っている場合は違法行為とみなし、ラボの他の理事のコミュニティも参加不可、さらに違法行為のお手伝いはできないので、広告等の作成も一切お断りするという方針で、今まで通り当方も日本の法律を遵守することを基本として健全な経営を継続していく所存です。

 

運転免許にしても、もし無免許でもお咎め無しならだれもわざわざお金払って教習所に行って免許取らなくなるでしょう。

我々の業種も同じです。
無資格施術がまかり通る業界のままなら、そりゃ誰もわざわざお金と時間注ぎ込んで免許なんて取りませんよ。

もっともっと治療院経営ラボの認知度もアップし、「ラボに入るためには免許いるから取得しよう」と思われるくらいになって、ちゃんと「治療院開業するには免許(国家資格)取らないと」と思ってもらえるようにしたいです。

そして我々免許持ちがバカを見ない業界にしたいです。
そして施術を受けるすべての人たちのためにも、施術をする側は免許を持っていることが大前提になる業界になればいいなあと望みます。

 

 

まとめ

さて今回は、免許持ちの多くの先生がモヤっていたことが「少しだけ前進したな」と思われた先生が多いのではないでしょうか。

正直なところ、治療院を経営する治療家を対象にセミナーをする事業をしているわけですから、こういう話題はスルーして無資格者もどんどん受け入れるという方向性にすれば市場は拡大されるので、経営判断としては間違っているのかもしれません。

しかし僕は経営者である前に柔道整復師であり鍼灸師であります。

当時は高額な寄付金を支払い、高額な授業料を支払い、学校にコネが効く先生の院で丁稚奉公という名の超低額重労働をし、毎日怒られ、人格を否定され、殴られ・・・・

「免許なければただの人」と言われ続け、毎日歯を食いしばり「免許さえ取れば・・・・」とあらゆることを我慢して、そして取得した免許です。

僕だけではありません。

あの頃、鍼灸科は1クラス70人前後で昼間部2クラス、夜間部1クラス。

柔整科は昼間部と夜間部で1クラスずつの2クラス。
1学年で300人弱。

これが3学年なので、あの頃僕の母校の校舎にいた学生1000人弱のうち8割くらいはそういう苦労をして免許を取ったわけです。

そしてそれが福岡柔整ができるまでの数十年続いていたわけです。

無資格者の中には、この記事を快く思っていない人もいらっしゃるでしょう。
いて当然です。
だって今日ピックアップした判例などは昭和20年代から昭和30年代の話。
僕も生まれていません。

でも「知らずして罪を犯してる」ということもあるわけです。

考えてみてください。
例えばあなたが会社勤めをしていたとします。
昇進にはペーパー試験もあります。

入社時から一生懸命働き、嫌な上司にもニコニコ頭を下げ我慢しながら仕事もして勉強もして昇進し課長になったとしましょう。

なのにいきなり途中でコネ入社した社員が「いや、そんな試験はハラスメントだぜ〜」とか言って無試験で課長になってしまって、会社は「そんなのダメ」って言ってるのに「憲法違反だぜ〜」と言って、それに労組が乗っかって騒ぎ立て、当たり前のように誰でも課長になってしまえる会社になったらあなたは冷静でいられますか?

会社ならそんな会社倒産するのでいいです。
でも、そういうことが日本の国で起こっているということですし、僕のこの記事や無資格者批判の情報に腹を立てる前に、僕たち真っ当に仕事をしている免許持ちの心情を慮るべきではないでしょうか。

僕が通っていた専門学校でも、元々はカイロプラクティックを学んでいたとか、整体法を学んでいたという方がいらっしゃいました。

「開業するんだから免許取らないと」

と高い寄付金と高い入学金と高い授業料を支払って免許を取られた先生、たくさんいます。

お金に関してもそうで、「お金がなかったから免許取れなかった」は嘘で、「免許を取得するためにお金を使いたくなかった」が真実です。

なぜなら、僕の時代は苦学生も多く(実際、僕も奨学金を借りていまして、つい最近完済しました)、親戚縁者からお金をかき集めて入ってこられた人や、修業先での仕事が終わってからそのまま深夜の日当が高いバイトをしてほぼ寝ないで勉強、修業、バイトを3年間続けて免許を取った先生とか、そんなのはザラにいました。

本気になれば、よほどのことがない限りは免許は取れたはずです。

ちなみに、カイロプラクティックの場合はD.C.というものがあります。
アメリカでは、M.DやDDSと同様に医師というジャンルに入ります。

それなりの教育を受け、なおかつどこかの州の試験(アメリカで開業なら開業予定の州)に合格することでD.C.となるわけですが、日本の免許ではありません。

D.C.を持っているので、医学的知識はガチ無免許者とは比べようがないほどちゃんとしておられるでしょうが、それでも日本では日本の免許が必要です。

例えばキネシオテーピングやクライオセラピーを発案され、筋膜治療の走りのように筋膜に着目して治療することを色々編み出されていた故・加瀬建造先生も鍼灸師の資格をお持ちだったはずです。

実は僕が一番初めに勉強会にいって何かディプロマをもらったのがキネシオテーピングの指導員ライセンス(今でいうCKTP)。

給料から天引きしてもらう条件で受講料を借りて、当時の初級ライセンス(多分、今でいうCKTT)と指導員セミナーとを受講したのを今でも覚えています。

 

また、面識はありませんが僕が出た専門学校の大先輩にあたるのがモーションパルペーションを教えておられる中川貴雄先生も柔道整復師、鍼灸師の資格をお持ちです。(放射線技師の資格もお持ちだとか)

アメリカで語学から学ばれ、そして英語で医学を学ばれた先生でも日本の免許を持っているわけです。

 

ほんの数ヶ月や1年実技のセミナー受けたド素人が免許持たずに開業・・・・なんて許されていいはずがないんですよ、本来。

今は学生不足ですので、学校なんてすぐに入れます。

僕ら免許持ちの真っ当な発言に四の五の言わずに・・・・

さらにいうなら、無免許運転している人間が運転免許を持ってる人間に対して「あいつ車の運転下手や」と批判するのがまったくのお門違いなように、無資格施術者が医師を含めた〝免許を持って他者の健康に関わる仕事〟をしている我々免許持ちを治せないなどと批判するよりも前に、まずは無資格者、無免許者が免許(国家資格)を取って同じ土俵に立ち、法律に反しない存在になってから言いたいことあるなら、言おうぜってのが正しい筋道ではないでしょうか。

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