開業して数年、気づけば院に物が溜まってきた先生へ。
片付けが進まないのは、意志が弱いからでも、美意識が足りないからでもありません。原因は、物ひとつずつに「いるか、いらないか」を判断していく、脳の負担のほうにあります。この記事では、その判断そのものを仕組みにまかせてしまう4つの手順を、順にお話しします。読み終える頃には、次の休みに何をすればいいかがはっきりしているはずです。
「片付けなきゃとは思っているんです。でも、忙しくてなかなか手がつかなくて」。電話相談でも、月例のワークでも、いちばんよく聞く言葉がこれです。真面目な先生ほど、そう言います。ですから、まず先にお伝えしておきます。片付かないのは、あなたの性格の問題ではありません。段取りの問題です。

なぜ、あの先生は物を減らせて、自分は減らせないのか
はじめに、言葉の整理をさせてください。片付けというのは、整理整頓のことだと思われがちですが、そうではありません。物をなくすことなんです。
武士道は死ぬことと見つけたり、という言葉がありますよね。それになぞらえて言うと、片付けは捨てることと見つけたり、です。極端に聞こえるかもしれませんが、物がなかったら、そもそも片付ける必要がないんですよ。だから、置き場所を工夫する前に、まず数を減らす。ここが出発点になります。
とはいえ、これがなかなかできない。理由は、意志の強さではありません。判断のコストです。
物をひとつ手に取るたびに、私たちは「いるか、いらないか」を判断しています。この一個一個の判断が、脳のリソースをものすごく使うんです。散らかったバックヤードを見るたびに、無意識のうちに「あれ、どうしようか」というスイッチが自動的に入る。それが積み重なって、頭が疲れていく。
そして、いちばん厄介なのがここです。忙しい毎日の中で、捨てるかどうかの決断なんて、とてもじゃないけれどできません。診療の合間に、あの機器を捨てるか、この掲示物を剥がすか、なんて冷静に決められる先生は、まずいないんです。だから、いつまでも減らない。物を減らせる先生と減らせない先生を分けているのは、この「判断」との付き合い方なんですね。
判断を「事実」に置き換える — 1年ルール
では、どうするか。答えは、判断そのものをやめてしまうことです。正確に言うと、「いるか、いらないか」という主観的な判断を、誰が見ても同じ答えになる事実に置き換えてしまう。
うちの奥さんが片付けの資格を持っていて、いろいろなノウハウを知っているのですが、その中で基礎中の基礎だけをお伝えします。365日以内に触っていない物は、別の箱に入れる。これだけです。
大事なのは、「これは使うかもしれない」「思い出があるから」と悩まないことです。悩んだ時点で、また判断コストが発生してしまいますからね。そうではなく、この1年、触ったか、触っていないか。その事実だけで、機械的に分ける。迷う余地を消してしまうんです。
やってみると分かりますが、1年以内に触っていない物を全部ひとつの箱にまとめると、凄まじい量になることを請け合います。「こんなに使っていなかったのか」と、たいてい驚かれます。

捨てる決断は、あとでいい — 院から「出す」だけ
別の箱に入れたとして、それをすぐ捨てられるかというと、やっぱり捨てられない。それが人情です。でも、それでいいんです。
すぐに捨てられなければ、そのまま1年、箱に入れておきましょう。とりあえず、で構いません。ポイントは、その箱を院の中に置いておかないこと。箱ごと、院の外に出してしまう。近くに貸し倉庫を借りてください。大阪でも、月に10,000円ほどで借りられます。ご自宅に納屋があるなら、そこでも構いません。
ここで、ひとつ考え方を切り替えてほしいことがあります。「もったいない」の使いどころです。
物を手放すのがもったいない、と感じる気持ちはよく分かります。でも、本当にもったいないのは、そちらではありません。無駄な物を溜め込んで、院が荒れて、その結果リピート率が下がっていくこと。こちらのほうが、よほどもったいないんです。院が荒れると、いちばん大事にしなければいけない患者さんから、静かに抜けていきます。
信じられないと思いますが、倉庫を借りたら、売上が上がりますよ。物を外に出しただけで、なぜ売上が、と思われるでしょう。でも、上がるんです。院の空気が変わり、先生の頭の中の「あれ、どうしよう」が減るからです。
判断する時間も、先に確保しておく — ヘイトデー
最後に、もうひとつだけ。ここまでの手順を、いつやるか、です。
忙しい日常の「ついで」に片付けをやろうとすると、まず終わりません。判断を減らす仕組みを作っても、その仕組みを回す時間がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。ですから、嫌なことをする日を、週に少なくとも半日は、先に決めて確保してください。水曜の午前中だけ、というふうにです。私はこれを、ヘイトデーと呼んでいます。
その半日に、溜まった片付けを一気にやってしまう。逆に言えば、その時間以外は片付けのことを考えなくていい。判断する日をあらかじめ決めておくと、それ以外の日の頭がずいぶん軽くなります。
まとめ — 減らせる人が、先に決めていること
物を減らせる先生と、減らせない先生。その差は、几帳面かどうかという性格ではありません。「院から機械的に物を放逐する仕組みを、先に決めたかどうか」の差です。
1年ルールで判断を事実に変える。別箱と貸し倉庫で、決断を先送りにしたまま院からは物を出す。ヘイトデーで、片付ける時間そのものを確保する。この段取りを先に決めてしまった先生だけが、実際にモノを減らせています。逆に、この決断ができないままだと、どれだけ「片付けよう」と思っても、結局モノは減っていきません。
まずいな、と感じている先生は、電話相談を入れてください。根本からやるのか、予算の都合で段階的に進めるのかは、一緒に決めていきましょう。月例のワークでも、こうした片付けと院づくりの話を続けています。ひとりで抱え込まず、次の休みの半日から始めてみてください。

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