治療院経営ラボ理事の松村です。
僕が若手だった頃、業界にはひとつの共通認識がありました。
「勤務している院でエース級にならないと、開業なんて無理だ」
技術で院の看板を背負えるようになって、患者さんに指名されて、先輩や院長に認められて・・・
そこまで行って「ようやく開業してもやっていけるんじゃない?」という話になる。
開業とは、ある程度修業をやり切った者に許される次の段階でした。
いま、この感覚を若い先生に話すと、昔話のように聞こえるそうです。
実際、昔話になりました。
今日はまず、その「昔話」を具体的にお話しします。そのうえで、この2、30年で業界に何が起きたのかを、構造として見ていきます。
学校に入る前に、「ふるい」があった
僕の時代、柔道整復師の学校に入ること自体が、簡単ではありませんでした。
まず、入学にはコネが要りました。
そして寄付金が要りました。
要するに裏口入学のようなものです。
コネと金がなけりゃ東大生でも落ちる、そう言われた時代でした。
その裏口に並ぶためにすらコネが必要だった——そういう時代です。
しかも柔整の学校は順番待ちで、僕は「柔整科は3年待ち。鍼灸科からなら入れる」と言われ、鍼灸科から入りました。
学校に入るまでに、修行が1年。
コネの強い院に入り、朝は誰よりも早く来て掃除と準備。
やり方がまずければ、しこたま怒られる。手が出ることも、当然のようにありました。
昼休みは院長の車を洗ったり、その他の使い走りをしたり、兄弟子のマッサージをしたり・・・
午後の診療が終われば、夜はマッサージや技術の練習会。
それが終わってから院の掃除をし、包帯を洗って干す。
帰りは、いつも夜の12時を回っていました。
それで、初任給は1万円です。
鍼灸科に入ってようやく3万円。
鍼灸師になって5万円。
もちろん、福利厚生は一切ありません。
学校に入れば楽になるわけでもない。
午前の診療で散々こき使われ、昼に学校へ行き、戻ってすぐ午後の診療。
終わればまた12時過ぎです。
ダメな人間は、この段階でふるいにかけられて辞めていきました。
つまり、学校に入ることすらできなかったのです。
ここで誤解のないように、「ダメな人間」の意味をはっきりさせておきます。
理不尽に黙って耐えられるかどうか、の話ではありません。
あの日々が本当に試していたのは、こういうことです。
辛いことでも、必要なことならやれるか。
嫌なことでも、必要なことならやれるか。
目標を持ち、そこに向かって自分を律することができるか。
「楽をしたい」「サボりたい」という欲、「これはやりたくない」という嫌——それらと毎日闘って、打ち勝てるか。
技術を身につけるとは、つまるところ、その闘いの積み重ねです。
それができない人間は、あの環境に限らず、どこにいても、何をやっても、ものになりません。
あの時代のふるいは、乱暴なやり方ではありましたが、この一点を確実に測っていました。
耐え抜いた者だけが資格者になり、その中でエースになった者だけが開業した。
世に出る施術者の質は、こうして担保されて部分があったと思います。
もちろん、あの環境を正当化するつもりはありません。
パワハラであり、モラハラであり、労働基準法など存在しないも同然の世界でした。
今の基準では明確に間違っていますし、戻すべきでもないし、戻せもしません。
ただ、ひとつだけ事実として言えることがあります。
あの理不尽な日々は、結果的に「ふるい」として機能していた。
そして、そういう環境でも頑張り抜いた人間は、開業してからも、へこたれなかった。
問題は、ふるいだけが消えて、その代わりが何も用意されなかったことです。
ここから、三つの崩壊の話をします。
第一の崩壊——入口の選抜が消えた
かつて全国に14校しかなかった柔道整復師の養成校は、2000年前後の規制緩和を境に、一気に100校を超えるまで増えました。
学校が増えれば、定員を埋める競争が始まります。
コネも寄付金も順番待ちも要らなくなり、入学のハードルは下がり続け、「就職率の高さ」を看板にした募集が当たり前になりました。
その結果、何が起きたか。
大学受験からドロップアウトした。
高卒で就職するのは嫌だった。
就職率が高いと聞いたから、この学校にした——そういう消去法の進路として、国家資格への道が選ばれるようになったのです。
誤解しないでいただきたいのですが、僕は個人を責めたいのではありません。
18歳の進路選択なんて、誰でも迷います。
問題は、制度がそういう設計になってしまったことです。
かつては学校に入る前の1年間が人間を選別していました。
いまは、志のある人もない人も、同じように資格者として送り出されます。
入口で選抜が働かなくなった以上、資格者の平均的な質が下がるのは、算数の帰結です。
第二の崩壊——出口の品質管理が消えた
それでも、もうひとつ関門がありました。冒頭の「エースになるまで開業できない」という、業界内の暗黙の品質管理です。
これは制度ではなく、文化でした。
ことあるごとに修業先の院長が「開業するにはこれくらい必要だ」と説いていました。
まず、院長が認めないと、患者さんを触らせない。
給料が安いので(なにせ初任給が1万円ですから)、一定基準以上の技術とコミュニケーションが取れないと、いつまでも患者さんを触らせない、が当然でした。
今はどうでしょう。
高い給料を支払わないといけない。
なるべく早く患者さんを触ることができる戦力にさせたい。
その結果、誰でも短期間である程度できるような技術〝だけ〟を教えるか、マッサージのみにして、それも何も考えず、どこを何回押す・・・みたいなマニュアルを作成し、判で押したような・・・金太郎飴のような、そんな誰でもできる簡単なことができればいい、という風潮になりました。
昔は、世に出る施術者の質を、業界が自分で管理していたのです。
この文化も壊れました。
理由は複合的です。雇われて働き続けるには待遇が厳しすぎたこと(初任給1万円の世界が健全だったとは、私も言いません)。
それともう1つ。
柔整業界に関しては、その保険の請求構造によって、技術が未完成でも「とりあえず食えてしまう」開業が可能だったこと。
修業をやり切る前に独立する道が開き、それを止める仕組みは、もうどこにもなくなったのです。
第三の崩壊——「教える側」の審査が消えた
そして最後の崩壊が、いちばん厄介です。
かつて、技術セミナーを開けるのは、長い臨床で結果を出し、業界の中で評価を積み上げた先生だけでした。
教える側に立つには、時間のかかる審査があったのです。
SNSは、この審査を丸ごと飛ばしました。
少し技術を覚えた若い先生が、達人のような顔で発信する。
フォロワーが集まる。
すると今度は、セミナーを開く。
発信のうまさが、技術の証明の代用品になったのです。
ここに、構造的な罠があります。
学ぶ側には、教わっている技術の浅さを見抜けません。
浅さを見抜くには、それ以上の水準を知っている必要があるからです。
初学者には、原理的に判定できない。
だから、大したクオリティのない技術が蔓延し、それを学んだ先生も「俺はできる」と思い込む。
そして数年後、その先生がまたセミナーを開く。
劣化したコピーが、世代を重ねて再生産されていくわけです。
これは経営でも同じです。
治療院経営ラボの前身である、整骨院自費導入アカデミーの頃、僕が伝えたメソッドで自費移行に成功し月商を上げた先生がいました。
その時点でお伝えしたメソッドだけをセミナーして発信したり、コンサルをやりだしました。
その結果、そのコンサルを受けた先生は逆に廃業に陥っていました。
ほんの導入部分だけで、まだ先があったのに結果を出してしまい、得意になってしまったのでしょう。
パクった彼は、明らかに僕が伝えた内容でも「僕も色々な本を読んだりしたので、どこで学んだかなんてわからないからパクってない」と言い切っていましたが、劣化コピーであることは明確でした。
そしてその結果がコンサルした院を廃業にまで陥らせるということだったと思います。
すなわち、「知ってる」「やったことある」「わかってる」——学びを止めるこの三つの言葉が、業界の規模で回転している。それが今です。
それでも、これは絶望の話ではない
入口の選抜。出口の品質管理。教える側の審査。三つが壊れて、業界の平均的な質は確かに下がりました。
しかし、視点を変えてください。
選抜が消えた時代とは、選抜を自分に課した者だけが本物になれる時代です。
誰も入口で選んでくれない。
誰も「まだ開業は早い」と止めてくれない。
誰も本物の技術と偽物を仕分けてくれない。
だったら、それを全部、自分でやるしかない。
基礎を、頭を下げて習い直す。
ひとつの技術に、腰を据えて年単位で取り組む。「知ってる」と思った瞬間の自分を疑う。
学んだことを、翌日から自分の院で実践する。欲と嫌に、今日も打ち勝つ。ふるいが測っていたものは、昔も今も、それだけです。
私たちの世代は、朝の掃除から深夜の洗濯まで、理不尽ごと押しつけられる形で鍛えられました。
あなたの世代は、同じことを自分の意思で選べます。
理不尽抜きで、鍛錬だけを選び取れる。
考えようによっては、これほど恵まれた時代はありません。
平均が下がった世界では、それをやるだけで突き抜けます。
皮肉なことに、質の低下は、真面目にやる先生にとって史上最大の追い風なのです。
誰でも開業できる時代だからこそ
昔は、開業までに本物になること、ある程度本物になる下地を持つことを業界が求めました。
いまは、誰でも開業できます。
だからこそ、開業してから本物になる場が要る——私はそう考えて、この10年以上活動してきました。
技術を磨いてきた治療家が、正しく報われる社会。
それは、業界の外の誰かが作ってくれるものではありません。
一人ひとりの治療家が、自分に選抜を課し、地域の患者さんに結果で応えていく。
その積み重ねの先にしかないと思っています。
三つの崩壊は、事実です。
しかし、あなたがどちら側に立つかは、構造ではなく、あなたが決めることです。
最後に
ここまで読んで、「自分に選抜を課す」という言葉が他人事に聞こえなかった先生へ。
治療院経営ラボは、そういう先生のための場です。
誰でも開業できる時代に、開業してから本物になるための実践の場として、10年以上運営してきました。
会員の柔道整復師は全員が自費移行を達成し、健康保険にも回数券にも頼らず、地域の患者さんに選ばれ続けています。
先にお伝えしておくと、楽な場所ではありません。
最低1年間のご継続をお願いしていますし、入会後にまずやっていただくのは、院の掃除と、自院のリピート率を数字で直視することです。
学んだことを実践しない方には、何も起きない場所です。
それでも——欲と嫌に打ち勝つ日々を、独りではなく、同じ覚悟の仲間と積み重ねたい先生は、下記からご入会をご検討ください。
▶ 治療院経営ラボの詳細・ご入会はこちら

コメント